UXライティングで、感情に寄り添うユーザー体験を ウェブ解析士 中村 さゆきさん

「仕事とウェブ解析士」をテーマにお送りさせていただくウェブ解析士インタビュー。45人目は、UXライターの中村さゆきさん。

UXライティングは、使い手(ユーザー)の感情に寄り添い、コンピューターと人のコミュニケーションを円滑にする言語表現と言われています。ヘルプ用のチャットボット、ツールのレクチャー、FAQなど、人とプロダクトのタッチポイントで求められるスキルです。日本ではまだ馴染みが薄いですが、DX推進とともに注目される分野ではないでしょうか。

UXライティングを「びっくりするくらい地味だけれども、とても大切なこと」と表現する中村さん。ウェブ解析士の知識は、UXライティングでも非常に役立ったそう。言語表現に携わるデザイナー、ディレクター、ライターの方へ、ぜひ伝えたいお話です。

(インタビュー・編集:ライター ふじねまゆこ)

目次

UXライターになった経緯

――自己紹介も兼ねて、中村さんが、UXライターのお仕事をするようになった経緯を教えていただけますか?

中村さゆきさん(以下、中村さん):UXライターになった直接のきっかけは、同じウェブデザイン業界の方から「UXライターに挑戦してみないか?」と声をいただいたことでした。本職はフリーランスのウェブデザイナーでしたが、ウェブ解析士を取得後、リスティング広告のテキスト文など、言葉周りの仕事にも多く携わっていたので、その腕を認めていただいたのかもしれません。

――ウェブデザインは、グラフィックやアニメーションに注目されがちですが、言葉も重要な要素ですよね。

中村さん:そうなんです。ウェブ解析士の知識を取り入れたことで、さらに言葉を意識するようになりました。それが、デザインの仕事にも表れていたのかなと思います。

――先日、中村さんが寄稿された記事『UXデザインと合わせて学びたい “UXライティング” の違いや事例まとめ』で紹介された事例を読んで、ウェブデザイン、ライティング、ディレクション等、幅広く活かせる技術だと思いました。

中村さん:まさに、UXライターの仕事は、業務の対象がプロダクトに特化したようなもの。通常のライティングやデザインで、意識されている方は多いと思います。

――中村さんはどのようなプロダクトを対象にお仕事をされていますか?

中村さん:UXライターとしては、採用活動のDXをテーマにしたウェブ面接サービスの制作チームに参加しています。日々、新しい機能のリリースや改善に向けて、プロダクトのテキストを調整しています。

――ウェブ制作の現場では、ワイヤーフレーム作成、ボタン周りの文言決定など、担当者ごとの仕事の線引きが各社で違うと思います。中村さんの場合はいかがですか?

中村さん:私はフリーランスで請負の仕事をしているため、企業を補完する形で参画しています。UXライターとして参画する企業は、ウェブ面接サービスの開発をされていて、インターフェースの文言周りからプレゼン資料といった広い範囲の「言語表現」を担当します。ウェブデザイナーとして参画するお仕事は、デザイン制作に加えてディレクションも求められる場面が多いです。

ウェブ解析士の知識は、UXライティングに活かせる

――「UXライティングは、言葉でプロダクトに命を吹き込む仕事」と聞いて、素敵だなと思いました。加えて、「根拠となるデータを用意することも大事」とも言われています。どのように、表現の根拠となるデータを集めていますか?

中村さん:人は親しみのあるもの、見たことがあるものは、抵抗なく受け入れやすいです。そのため、競合他社の例を集めて根拠にしています。また、仮説をもとに公開して、カスタマーセンターへ集まった反応から判断して微調整する場合もあります。

――ユーザーの声が直接得られる環境で、PDCAを回されているのですね。ウェブ解析士として、レポート作成はされますか?

中村さん:ウェブ解析レポートは別部門の方が担当されています。私は、データをもとに制作する立場ですから、UXライティングに集中して取り組みます。

――ウェブ解析士の知識を、ライティングに活かされる方は、珍しい気がします。

中村さん:作って終わりではなく、改善を通してユーザーのビジネスの課題を解決をするという点で、UXライティングとウェブ解析士の方向性は同じです。データからユーザーの心理や行動履歴を読み解く知見が、UXライティングには必要ですから。プロジェクトマネージャーやエンジニア、カスタマーサポートなど複数の立場の方と、共通言語で会話を行えるのもウェブ解析士の勉強があったからだと感じています。

――ウェブ解析士とUXライティングの知識を持ち合わせている方は、業界的にとても頼もしい存在だと思います。

中村さん:お客様からは、社内にない第三者の視点で意見を求められますね。ですので、ウェブデザイン業務で関わることが少ない、プロダクトの文言、プレゼン資料、新規サービスであれば言葉の定義を整理するなど、踏み込んだところまで対応を求められます。

――事業にしっかり踏み込まなければいけない仕事なんですね。とはいえ、ディレクター(プロジェクト管理者)ではないし、プロダクト設計者でもないという。線引きが難しそうです。

中村さん:そうなんです。そういう意味では、UXライターはコピーライターとは違って、あまりクリエイティブではない仕事かもしれません。「人の心を動かす」よりも、「人に心地よく利用してもらう」ことに軸足を置きますから。言葉の定義を調べて、誤解のない表現を選ぶため、地道な調査が必要です。

「人の感情に寄り添う表現」をするには?

――UXライティングは、どのように勉強されましたか?

中村さん:まず、関連書籍を読み倒しました。セミナーや勉強会に参加するのも良いですし、UXライティングを実践されている方のブログも参考になります。あとは、いつもより意識して身の回りのプロダクト、テキストを見てみると発見がありますよ。言葉は身近すぎて、結構、スルーしちゃうんです。

――身の回りで、いいなと思うUXライティングの事例ありますか?

中村さん:寄稿記事で紹介した、Yahoo! JAPANの事例は印象的でした。個人情報の入力で性別を聞かれる場面。Yahoo! JAPANは、「男性」「女性」「その他」のほかに「回答しない」の選択肢を設けています。性別を回答しない世界を目指す意気込みを感じました。ちょっとしたことですけど、感動して、すごいなと思った事例ですね。

引用元:ダイバーシティ時代に「性別を選択する」ということ – Corporate Blog – ヤフー株式会社

――最近、NGな事例で、「その他」の部分に「LGBT」と設けた例を見かけました。たったひとつの選択肢で、企業の姿勢や印象が大きく変わりますね。

中村さん:そうなんですよね。プロダクトの制作に参加して、お客様の声が直接聞こえるというのはすごく、改善する身としてありがたいなと感じています。根拠となるデータ・情報を知っているかどうかで、制作物のクオリティがぐっと変わります。

――中村さんが参画されている、ウェブ面接サービスのUXライティングは、どのようなお仕事ですか?

中村さん:プロダクトの文言、FAQなどの表現チェックや、ランディングページのテキスト校正を行っています。採用サービスは、応募者の評価、パーソナリティといった、繊細なところに踏み込むので、差別的な表現を使っていないかなど気をつけなくてはいけません。

――NGな表現はありますか?

中村さん:例えば、AIが面接動画を評価するサービスがあります。これに対して、機械的に人間を振り分けるような表現は避けなくてはいけません。あくまで採用活動をサポートする機能であって、最終的には人が、さまざまな情報を元に判断します。言葉一つで誤解を招きかねない、繊細な部分です。

――ユーザー一人ひとりを意識するような、行き届いた気配りが、UXライターの腕の見せ所とも言えそうですね。

中村さん:そうですね。ユーザーがいかに心地よくプロダクト体験できるかというところが、コピーライターとの違いでしょうか。

――最近の炎上案件をみていると、言葉の選び方一つで与える印象が大きく変わりますよね。本当は個人の意見かもしれないけれど、「この会社・組織はそういう考え方をしているんだ」と見られてしまう。

中村さん:その点、ウェブ解析士として知っておくべき行動規範や法律の知識は役に立ちます。言葉は一つ間違えると、ユーザーに不安や不快感を抱かせる可能性がありますから。モラル、常識といった側面も、ウェブ解析士の知見を取り入れておくといいと思います。

――ウェブ解析というと、アクセス解析ツールの見方や、広告運用などが注目されがちですが、デザイナー、ライターの方の基礎知識として学んでおくと、仕事のクオリティアップになりそうですよね。

中村さん:私はいま、就労支援施設などのトレーナーとしてウェブデザインの学習サポートをしています。ただ、ウェブデザインを学びながら、マーケティングや、ウェブ解析に興味を持つ方は少ない印象です。個人的には、経営者として事業をおこした経験から、数字で成果を得ることが何より大事だと思っています。「デザイナーはウェブ解析士を学んで当然」くらいに思っているのですが、まだギャップがありますね。

UXライティングが当たり前になる未来

――UXライティングに興味がある方へ、伝えておきたいことはありますか?

中村さん:UXライティングはサブスキルになりえます。UXライターそのものを目指さなくとも、どんなお仕事でも「言葉」は使いますよね。現在のお仕事と掛けあわせることで、得るものはあると思います。プレゼンの資料や、プレゼン中の言葉遣い。受注までの流れなど、言葉の使い方を意識してみてください。

――昔は良くても、今はNGの表現は周りにたくさんありますよね。

中村さん:そうなんですよ。日常的にずーっと考えています。考えれば考えるほど、良いものが書けます。この時間で終わらせようという仕事ではないですね。言葉って、常にインプットして考えないと良い表現が出てこない。

――何文字書いて終わりの世界じゃなくて、永遠に続く仕事ですね。

中村さん:社会や、人の変化で、言葉の捉え方は変わります。より本質的な視点が求められる仕事です。海外の方が進んでいるけれど、英語と日本語で違うでしょうし。

――どうすれば、UXライティングが一般化すると思いますか?

中村さん:ウェブやデジタルプロダクトでは、デザインやディレクションと兼業されている方が多く、UXライティング専門で取り組めない方が多いと思います。でも、出版、新聞、テレビといった業界には、校正専門の部署や組織がありますよね。時代とともに言語表現の重要性が増して、そういったUXライティング専門の会社が現れるかもしれませんね。

あとがき

「体験」に着目した表現をするUXライティング。初めて聞いたときは、どのようなものを指すのか分かりませんでした。しかし意識して周りを眺めてみると、「言語表現」を中心にしたウェブの世界で重要な技術だと思えてきます。同時に、ウェブやコンピューターに抵抗がある方でも使いやすく、親しみやすいものになるための架け橋として、必要とされる技術でもあるでしょう。

中村さんが執筆された『UXデザインと合わせて学びたい “UXライティング” の違いや事例まとめ』では、UXライティングの基本的な考え方や実例をまとめています。また、ウェブ解析士協会では、ウェブにまつわる技術のflashセミナーを開催しています。資格無しで参加可能なイベントもありますので、ぜひチェックしてみてください。

ウェブ解析士協会|Doorkeeper

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