「仕事とウェブ解析士」をテーマにお送りさせていただくウェブ解析士インタビュー。35人目は、神奈川県の公益社団法人 かながわ福祉サービス振興会にて自治体の福祉・子育て支援情報サイトの運用管理を担当されている上級ウェブ解析士の宇田葉子さん。

過去に、配偶者の海外転勤や転職による引っ越しなどにより約8年の専業主婦期間を経て、国立機関の技術補佐官(パートタイム職員)として社会復帰。新卒で入社した企業で5年間のシステムエンジニア経験があったものの、未経験でウェブ管理者に。独学でウェブ関係の知識を積み重ねるうちに、導かれるようにウェブ関係のキャリアを築き、現職のサイト運用管理者や上級ウェブ解析士資格の取得につながりました。
ドラマティックな宇田さんの上級ウェブ解析士までの道のりは、離職期間からの再就職やウェブ業界へのキャリア転換をチャレンジしたい方々を照らしてくれるものでした。
(インタビュー・編集:ウェブ解析士 大渕 久恵)
行政情報を必要な方へ届ける架け橋を目指して
こんにちは!現在のお仕事を教えてください。
現在は神奈川県の公益社団法人 かながわ福祉サービス振興会にて行政のサイト運用管理者をしています。関わるサイトは10サイトほど。主に福祉事業・子育て支援に関するサイトに携わっています。
多くのサイトを担当されているんですね!
そうですね。福祉関係といっても大きく3つに分かれており、それぞれ「介護福祉」、「障がい福祉」、「子育て支援」とあるのですが、私はメインで子育て支援分野を担当しています。
例えば、神奈川県の「父親の育児支援サイト」の企画から取材、編集まで行っています。基本的にはサイトの編成に関して管理者である行政へ企画提案をし、承認が取れてから制作の流れになるのですが、その提案にもウェブ解析の知識を役立てています。
行政の担当者への月次報告はサーバーログ方式のアクセス解析ツールを使用していますが、ログファイルを読み込みレポートを表示するという類のものなので、タイムリーな分析が難しく……。アクセスが伸びた記事やページなどを別途 Google アナリティクスでデータを抽出し、コメントを付けたレポートを追加で提出し、より必要な人に伝わりやすい情報発信を行政の担当者に提案することを心がけています。
自身が専業主婦で2人の子育てを経験しているからこそ、いちユーザーとしての視点も大切にしています。
文系でIT業界の扉を叩き、ブランクを経てもチャンスを掴む。
ご自身の経験も現在のお仕事に活かしているんですね。今までのご経歴をお伺いしてよいでしょうか?
大学卒業後、新卒でシステムエンジニアをしていました。大学は女子大、しかも家政学部児童学科専攻だったのですが、家庭科の教員免許取得のための必修科目でコンピューター演習があり、プログラミングの面白さを知り興味を持ちました。
卒業時は就職氷河期で、教員試験も倍率が高くて不合格。そこで女性にも就職しやすいIT企業を選びました。その後5年ほど、システムエンジニアとしてシステム開発やプログラミングのキャリアを積み転職。教育サービス業に3年勤めましたが、配偶者の海外転勤を機に退職。2カ国で駐在妻として過ごす中で、東日本大震災後の2011年に帰国、再就職を目指しました。
当時は東京郊外に住んでいたのですが、まだ子どもが小さかったこと、また震災の影響もあり短時間のパートなどを含め仕事を見つけるのが難しい状況でした。専業主婦を8年間経験したこともブランクとみなされ、派遣会社の登録も断られてしまうほどでした。
なるべく家の近所で働きたい……と仕事を探していた時、たまたま見つけたのが居住地からほど近い場所にある某国立研究所の技術補佐官(パート勤務)の募集でした。募集要項ではTOEIC600点以上、IT経験3年以上、とのことだったので私でもチャレンジできるかな、と思い応募しました。結果、新卒から5年間のIT企業でのシステムエンジニア経験が認められ、無事に採用となりました。
ブランクがあってもIT系の経験は強い、ということですかね?
いや、今だから言える話……ですが、技術補佐官という職種での募集でしたが、蓋を開けてみるとウェブ管理者の募集だったのです。IT企業でシステムエンジニア経験がある、と言ってもウェブ関連の知見はゼロに等しく…。独学で必死にHTMLやCSSを学び直して1年でなんとか分かるようになりました。
ウェブの知識も増えて仕事も順調だったのですが、今度は配偶者が転職することになり研究所を退所。家族で大阪に引っ越しました。初めての西日本、大阪での生活だったので家族が生活に慣れるまで、子どもが学校や幼稚園に行っている時間を利用して3ヵ月間ウェブの学校に通いました。
そこで改めてウェブの理論を学び、知識をインプットできたのですが、仕事を探そうと思ってもウェブ関連の仕事はフルタイムしかなく、子どもを保育園に預けるハードルのほうが高くて一旦ウェブの仕事は離れてしまいました。

一旦は離れたウェブ系の仕事、その後、導かれるようにウェブ解析士の道へ
確かに、今はクラウドワークスなどでウェブ系の仕事も見つけられますが、パートタイムやフリーランスでのウェブ系の仕事が増えてきたのはここ数年の印象がありますね。
職種は重視するポイントから一旦外して、パートタイムで働ける別の仕事を探しました。そして、某老舗ホテルの営業事務の仕事を見つけました。当初は営業部の配属だったのですが、ウェブサイトの管理者経験があったことからマーケティング部に異動になり、ウェブサイトの運営補佐をすることになりました。
ウェブ系の仕事に戻り、今までインプットしてきたもののアウトプットも実現したのですが、またまた夫の転職で今度は横浜へ引っ越し。上司からの推薦で、引き続き東京の系列ホテルのマーケティング部で勤務することができました。富裕層のお客様に、勤務先のホテルに足を運んでもらえるようにプロモーションを工夫するのはとても面白く、やりがいのある仕事でした。
でも、私は育児ノイローゼに苦しんでいる保護者や虐待されている子どもを助ける仕事がしたいという思いがムクムクと湧いてきて、横浜からホテルのある東京までの通勤時間も長時間になることから転職活動を開始。現在の公益社団法人 かながわ福祉サービス振興会で正社員として採用され、今に至ります。
富裕層へのプロモーションよりも、今困っている人たちへの手助けをしたい
『今困っている人達に向けてのプロモーション』確かに今の行政関係のお仕事だと実現できそうですね!ウェブ解析士を取得されたのは今のお仕事を始めてから、ですか?
そうですね。過去に「Google アナリティクスで分析してほしい」「データがほしい」と依頼を受けてもパート職位だったので閲覧権限が付与されず、マーケティングの経験も乏しく、このモヤモヤを脱するためにどうしたらよいだろう?とずっと考えていました。
現在の法人に入社して数か月して慣れてきた頃に、SNSで知人がウェブ解析士の勉強をしていることを知り、調べてみたら『まさに私が求めていたものかも!』と感じ、一日講座に参加してそのまま受験、合格することができました。それが昨年の春(2019年)です。
なるほど。それまで国立研究所やウェブの学校、ホテルでのサイト運営管理等、ウェブ関連のパートのお仕事経験がウェブ解析士資格で一つにつながった、という感覚でしょうか?上級まで取得された理由を教えていただけますか?
ウェブ解析士を取得してから1年近くが経った頃、新型コロナウイルスの感染拡大でステイホーム期間に突入して。ちょうどウェブ解析士協会から上級講座の案内があったので在宅時間の多いこの機会に何か勉強してみようかな、と思ったのがきっかけでした。
ウェブ解析士の資格には合格したけれど、取得後に実務が一変したか、というとなかなか実感できる変化もなく、ウェブの知識があるとは言え、マーケティング分野も詳しくなければ専門的でもないことに課題を感じていたので上級資格取得はある意味チャレンジでもありました。
コロナのステイホーム期間、ということはオンラインで受講されたのですか?資格取得までどれくらいの学習時間が必要でしたか?
上級の講座を受講したのは完全オンライン受講ができることがメリットでした。学習時間に関して言うと、ウェブ解析士協会のサイトでは40〜60時間と書いてありますが、何が大変かというとレポートが大変でしたね。講義を受けて自分なりに咀嚼して、短い期間でレポート提出、というアウトプットをコンスタントに出さなくてはいけない。しかも数種類のレポートを。
アウトプットの練習ができたんですね?
セグメントを分けてどんな人がサイト訪問しているか?までは初級では考える必要がなかったけど、上級ではウェブではないところからのアクセスやCVのきっかけ、例えば紙チラシや来店などオフラインのプロモーションも紐づけていかに分析していくか?を問われました。
特に「仮説力」や「課題定義力」が鍛えられた気がします。最終課題にも仮説力が問われていましたね。私の修了レポートのターゲットは自身も経験した駐在妻(略して駐妻)。私も10年前は駐妻だったわけですが、当時でも周囲の駐妻さんたちは本当に能力が高い方ばかりでした。有名大学を出て、語学堪能で、有名企業でバリバリやっていたような方がゴロゴロいるのです。今はもっとそうだと思います。
みなさん夫の海外赴任に帯同するために駐妻になっていますが、仕事への意欲もある方が多く。そのような方へ響くプロモーションを上級講座の集大成である修了レポートでは考えました。具体的なターゲットをイメージしながらのレポート作成はとても勉強になりましたね。今後の課題としては想定されたターゲットにどのように必要な情報を届けるか?を特に意識していきたいと考えています。
今新しいプロジェクトが立ち上がってメンバーたちとウェブ解析に関して学びを深めているんです。運営するサイトでウェブ広告を代理店さんに依頼することになり、私がパート時代に感じていたような疎外感やモヤモヤをメンバーたちが感じることが無いよう、そして、代理店さんの言われた通りに従うのではなく、きちんと対等に話ができるように、ペルソナの設定やKPIの立て方を一緒に確認しながらプロジェクトを進めています。
ウェブマーケティングに関しては実務経験がほぼ無いうちにウェブ解析士の資格を取得してしまいましたが、上級で学んだことが現在の実務にも直結している実感があります。
宇田さんは上級ウェブ解析士の他に保育士資格もお持ちなんですよね?
実は今の法人に入って保育士の資格も独学で取得しました。自分の得意分野として「子育て支援」と言えるようになりたくて。
今の法人に入った時点でウェブ系の業務経験もトータル2年ほどしか無かったので自分の「売り」はなんだろう?と。得意分野を持つことが大事だと感じて保育士を取りました。「保育士」と「ウェブ解析士」二つの肩書があることで、その組み合わせの意外性から話題が広がったり、提案の幅が広がったりしているんです。私のキャリアのオリジナリティもできたと感じています。

すごいですね!とても戦略的!
私自身、配偶者の転勤や引越し、子育てなどでキャリアブランクを経験して再就職の難しさを痛感したのでこれから社会復帰されたい方々には離職期間にどんなことが楽しかったか?自分の得意は何か?を意識してみることをおススメしますね。
ウェブの専門性だけで戦おうと思うとすでに第一線で活躍されている方々に追い付くのはとても大変かもしれないけど、+αがあることで、その方のスキルも輝いていくと思うので。お料理が好きなら「お料理×ウェブ」、経理の経験があるなら「経理×ウェブ」、ピアノが得意なら「ピアノ×ウェブ」など。掛け算のスキルで、その方らしいオンリーワンになれると思います。
日常的に行政と社会をつなぐ子育て支援に関わっているからこそ、今は子育て等の理由で仕事をしていなくても、いずれ社会復帰したいと考えている方々を心から応援したいと思います。
今後の目標を教えてください。
困っている人に必要な情報を届けられるお手伝いがしたいです。
今の子育て世代の情報収集の方法って多様化していると思っていて。この前チームメンバーとも話題に上がったんですが、例えばLINEの使用目的や用途は人によって全然違う。仕事でPCを毎日当たり前に見て、検索エンジンで無意識に調べものができている一部の人だけで情報の発信方法を決めてしまっては本当に必要としている人達にまでリーチさせることが難しいと思うのです。もちろんウェブだけでできるものではありませんが、ウェブにもまだまだできることはあると思っています。
私の所属している法人は営利目的ではないので、ウェブ解析士で習ったような売上げを基準にしたコンバージョンを設定したりKPIを立てたりするものではありませんが、住民と行政の間のポジションにいる立場として、それぞれをつなぐ仕事がしたいと考えています。

編集後記
筆者が宇田さんと出会ったのはSNSのコミュニティでした。宇田さんはご自身の経験からキャリアブランクを抱えながらも社会復帰を目指す女性に向けたSNSのコミュニティをプロボノで運営されています。
『ウェブ解析士』という言葉の文字列だけ見るとハードルが高そうに感じられる方も多いかと思いますが、ウェブ解析士協会には女性・ママさんウェブ解析士も多数在籍し、各々のバックグラウンドを活かしながらそれぞれの現場で活躍しています。
宇田さんのお話にもありましたが、自身の「得意」との掛け算のスキルで活躍の機会を広げられるウェブ解析士。ウェブ解析士達にも多様性が生まれることが今後の社会課題の解決、特に昨今早急な変革を迫られている様々な分野におけるデジタル化につながる第一歩なのかもしれない、とお話を聞いて感じました。