小売の新しい顧客容態変容をさせようと試みていたショールーミングはコロナ禍による影響で今後成功できるのか。
〜思いつくままに簡易4C分析を実施してみた〜

まさかこんな早く、超VUCA時代が到来するとは。と皆さんも感じていると思いますが、私もその一人です。

コロナ禍によって、外部環境が大きく様変わりし、内部環境までをも変化せざるをえない状況が突然来るとは思ってもみなかったですね。

特に外出が制限されたことで、オフラインで存在する店舗については、ヒト・モノ・カネのヒトが動かないのだから、モノもカネの動きも鈍化するのは当然です。様々な事業体でデジタルトランスフォーメーションが急務とされる状況に陥っています。

私はデジタルマーケティングに長年足を突っ込んでいますが、コロナ禍前までは将来のマーケティングアイディアを提案してもなかなか理解されませんでした。しかし今では、マーケティングアイディアを実行するにはどうしたらいいか、と質問をされることが多くなってきていることから、焦っている方々が増えてきていると感じています。

結果論ではありますが、このような状況下でもテストマーケティングには一定のコストと労力をかけるべきという議論があります。テストマーケティングを少しずつでも真面目にしっかりやっていた事業体は、コロナ禍でも何とか地に足をつけた対策ができていることが多い、と思う今日この頃です。

さて今回は、コロナ禍前に少し話題になっていましたが、消費購買行動に影響を及ぼす「ショールーミング」という販売手法について、今後どのように変化をもたらすか気になったので取り上げてみました。

コロナ禍で環境が激変したことに伴い、ショールーミングがどうなっていくのか。ビジネスフレームワークの「4C分析」を使い、なるべく簡単に考察してみたいと思います。
 そうは言っても、普段のビジネスや事業に取り組みながら、言語化する時間を捻出できない企業や経営者は多いかも知れません。
しかし、あえて言語化することで「事業判断の意思決定がしやすくなるな」や「何かビジネスの気づきにつながるためにこんな簡単でもアリなんだな。よし!自分でも簡単にメモしてみるか」程度に思ってもらえれば大丈夫です。

今回は事例として、ショールーミングの例としていち早く取り入れて話題となった大手アパレル「ZARA」と「ユニクロ」を紹介しつつ、コロナ禍後にショールーミングが成功できるのか考えてみたいと思います。

なお、本件はあくまで個人的な考察ですので、あらかじめご了承願います。

目次

1.そもそもショールーミングって何?

ショールーミング(Showrooming)とは、実店舗をショールーム代わりに「商品・製品を見て、触れて実物を操作したり確認するもので、商品に備え付けのタグなどの二次元バーコートを読み込み、ECサイトから購入したり、家に帰ってからその店のECサイトで購買することの一連の流れを指します。

つまり、オフラインの実店舗で消費者に実際の物を見せたり体験させたりして囲い込みながら、購買はすべてECサイトで実施することで、実店舗の在庫や人員を持たないという方法と言えます。

2.ショールーミングの対義語として表現されるウェブルーミングって何?

ウェブルーミング(Webrooming)は「ショールーミングとは真逆の購買行動」をのことを指します。

消費者がブランドサイトやECサイトを検索し商品の情報・価格・レビューなどを調べ、次にオフラインの実店舗に訪問して商品を直接確認して購入する、という流れです。
 例えば家電購入を検討するときに、まず数多くの情報をネットで整理し、その後家電量販店を訪れて製品を確かめながら、保証期間や価格などについて交渉し購入する、という流れをイメージするとわかりやすいでしょう。

3.4C分析の観点からショールーミングについて考えてみる

コロナ禍によって、ユーザーの行動自粛が企業側の外部環境変化に直接大きな影響を及ぼしたと考え、ユーザーを起点にした4C分析に着目し、ZARAを例に簡易的に分析してみました。

実際にZARAはどうだったのでしょうか。下記の4C分析を作成してみました。

まず、コロナ禍によって4C分析の2軸の項目「ユーザーの負担コスト」「ユーザーの接触機会」は大幅に減少・減退しています。当然、「ユーザーの負担コスト」としての「店舗までの移動コスト」がショールーミングの基本である来店行為に直接的な影響を与え、負担コストが大幅に増加しているので、企業活動のマイナス要因になっています。

また、「ユーザーの接触機会」であるZARA店舗は商業施設に入っているものが多く、路面店でも一時的に営業自粛したことによりユーザーの接触接点が減少し、「ショールーミング」そのものが機能できない状況になっています。
その他の項目にも着目してみます。コロナ禍によって残りの二項目である「ユーザーが得る価値」、「ユーザーの利便性」は特にユーザーの行動や意識の変化が起きていないため、評価はステイとします。

これらの結果、4C分析においては、コロナ禍による影響によってマイナスをプラスに転じる施策やコミュニケーションの改善が図られないことから、顧客の心理や評価が相対的に下がった結果、エンゲージメントが下がる一方となってしまっていることがわかります。

図1.ZARAユーザーの4C分析およびコロナ禍後の変化

図1.ZARAユーザーの4C分析およびコロナ禍後の変化

こういったケースはZARAに限った話ではありません。実店舗を持っていた店舗や企業でも同じようなことが起きているはずです。

しかし、コロナ禍においてもユーザーのエンゲージメントを維持・向上できた企業があります。ここではその例として、ユニクロを挙げます。
ユニクロは「ショールーミング」は行っていないものの、4C分析をしてみるとユーザーとのエンゲージメントの減少・減退を止めることができた企業だと言えます。

図2.ユニクロユーザーの4C分析およびコロナ禍後の変化

図2.ユニクロユーザーの4C分析およびコロナ禍後の変化

「ユーザーが得る価値」が上昇しています。当時、社会的課題となっていたマスク不足に対し、繰り返し洗え、かつ熱中症対策ができるエアリズムマスクは話題になり、「ユーザーが得る価値」は一時的にですが大きく上昇しました。
これにより、「ユーザーが得る価値」は「ユーザーの負担コスト」の「店舗までの移動コスト」を上回ることになり、結果、ユーザーが店舗に長蛇の列を作ったことは記憶に新しいですね。

「ユーザーが得る価値」を引き上げたことで、マイナス要因が増加している他の要因を押し上げてユーザーを来店させられたということは、一時的にではあっても企業がコロナ禍に対し対策が打てたということになるでしょう。

ショールーミングに話を戻します。
 ショールーミングはあくまでも、ユーザーに来店してもらうことで成立するものですが、ユーザーにとっては移動コストがかかるものです。しかし、4C分析の「ユーザーの負担コスト」以外の要素での改善策・新規施策が奏功しユーザーへの効用が上がれば、ユーザーの移動コストを押し除けて来店してくれることもあるでしょう。そうすればショールーミングが機能する可能性も十分に考えられる、ということがユニクロの事例でわかります。
 こういった事例をもとに仮説設計することで、事業活動において新たな気づきが生まれるかもしれません。

4.ショールーミングは今後成功するのか

ショールーミングは今後成功するのでしょうか。
 企業側の考え方も影響を及ぼしそうです。マルチチャネル戦略の一つとしてショールーミングを利用するのか、店舗型の店舗の一つとして見なすのかによって、継続すべき判断軸が異なるかもしれません。

マルチチャネル戦略となると1つのチャネルなので、失うことへの抵抗は大きくなるかもしれません。そういった場合は、経営判断としてコストがかかっても継続するべきと判断することもあるでしょう。
逆に店舗の1つとしか捉えられていなければ、採算が悪いだけだったと判断し早々に撤退する可能性もあります。

戦略上、その店舗をどの様な意図や見方で判断するのかによって、舵取りは変わるでしょう。ショールーミングという販売手法がコロナ禍でどう判断されて市場に残るのかみていく必要がありそうです。

企業側の考え方もあるでしょうが、先述したように、ユーザー起点で考えた場合、ショールーミングは店舗までの移動コストがマイナス要因として、事業の影響に直結するため、企業活動においてはコロナ禍の中では難しいのではないでしょうか。。

リアル店舗でユーザーとのコミュニケーションが発生しない単純なショールーミングだけではユーザーとのエンゲージメントは醸成されません。例えばアパレル業種のように、ユーザーが製品に触って試着さえすればわかるものは「ユーザーが得る価値」を押し上げにくく、エンゲージメントが醸成もしづらくなります。
 また、ユーザーの生活圏内にあるリアル店舗は、セールを開催するなど賑わいを演出するといったようなことも必要になりますし、店舗周辺を歩く顧客(準潜在層)の来店も見込んだ戦略が必要になるでしょう。ただ商品を取り揃えれば見てもらえるわけではありません。

こういったケースも踏まえ、業種や業態によってショールーミングとウェブルーミングを使い分けていく必要はあるでしょうし、ショールーミングの中身も工夫していく必要がありそうです。

ショールーミングとウェブルーミングの双方をうまく融合させている企業もあります。
 その例としてアップルストアが挙げられます。アップルストアは店舗には在庫をほとんど置かず、カスタマーサポートや製品の情報提供ができるスタッフを常駐させています。ユーザーがメンテナンスやトラブル対応を求めた製品に対し、スタッフが状況を詳しく確認して問題を解決するほか、新商品や製品の細かい内容を確認したいユーザーへのフォローも行っています。こういった場合、「ユーザーの得る価値」は「ユーザーの負担コスト」に勝るため、ユーザーは移動コストを払ってでも店舗に来店することになります。

こういったように、ショールーミングとウェブルーミングをうまく融合させることも一手でしょうし、企業が生き残っていくために必要なことかもしれません。ショールーミングを販売チャネルや接触ポイントとして単純に捉えるだけでは厳しいでしょう。

今回はショールーミングの今後について考察してみました。
 このコロナ禍で、ブランドだけではエンゲージメントに繋がらず、事業を存続させることは難しくなるでしょう。
 これからの企業活動には、ユーザーの生活に密着したソリューションや、ライフスタイルを豊かにするコンテンツを模索し、価値を提供することが求められます。そのためにコストや労力をかけてテストマーケティングしていくことも必要になるでしょう。


参考

ECの未来を考えるメディア
https://ec-orange.jp/ec-media/?p=9365

ZARA 六本木ヒルズ ショールーミング
http://shogyokai.jp/articles/-/713 ※リンクは当時2020年3月時点参照

「FABRIC TOKYO」(丸井グループとFABRIC TOKYOとの提携) 新宿丸井本館
https://beautytech.jp/n/n354981581d0f

Wacom(丸井グループとWacomとの提携)新宿マルイアネックス
https://beautytech.jp/n/n354981581d0f

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Google アナリティクスをはじめとしたGoogle系のツールは、その使い方を知ることも大切ですが、使うための戦略や設計が必要です。それは、ビジネスに成果をもたらすために必須の考え方です。

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この記事を書いた人

1983年東京都生まれ。
ウェブ解析士マスター/ITコーディネータ/上級バーチャルリアリティ技術者/JDLA
Deep Learning for GENERAL 2019#1取得者

現在、大手金融機関の企画部門にて、ウェブ広告運用とデジタルマーケティングといったウェブプロモーションを担当。実務にて各種解析ツールを利用してデジタルマーケティングの改善を模索しては広告運用で実施しながら実務にてPDCAを回す日々。
顧客獲得のリード獲得が長い業界を得意とする。

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