制作会社のウェブデザイナーがウェブ解析の知識を持っていて良かったと感じた業務の実例

はじめまして。
上級ウェブ解析士3年目、ウェブデザイン歴10年の江端朋子(えばたともこ)です。

ウェブ制作・システム開発・ゲーム開発を手掛ける株式会社シグレストという会社で、ウェブデザイン・グラフィック業務、Google アナリティクスを活用したコンテンツ提案の業務を行っています。

今回は制作会社のウェブデザイナーが、「ウェブ解析士の知識を持っていて良かったな」と感じた業務の実例をご紹介します。特に、コンペ案件の多い制作会社の方に、アクセス解析データの説得力を感じていただければうれしく思います。

目次

ウェブサイトのデザイン提案書にアクセス解析データは必要か?

読者の中には、ウェブデザイナーがウェブ解析士の資格をもつことに、意外性を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。あるいは、ウェブデザイナーは「トレンドを掴むセンスと、それを体現できるテクニックを磨くのが本業なのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、皆さんもご存知のように、昨今のウェブサイトで求められているのは格好良いだけのサイトではなく、企業目標を達成できるサイトです。つまり本当に良いデザインとは、企業イメージに合ったデザインであり、なおかつ、企業利益に貢献できるデザインです。

ディレクターから伝えられたデザイン要件のもっと先、クライアントが本当に必要としているデザインの提案は時にアクセス解析によって見えてくると感じています。

「コンペ案件のデザインを制作するので、アクセス解析データをください」と要求するデザイナーは少ないかもしれませんが、デザイン提案をする上で、過去のデータを確認できるかどうかは非常に重要であると私は考えます。

アクセス解析データに隠されたデザインのヒント

先日、サイトリニューアルのコンペ案件で、クライアントからお話を伺った時のことです。事前にリニューアル案件と提示がありましたので、「デザインの一新かな?」と私はわくわくしていましたが、ヒアリングした要件は次のようなものでした。

ターゲットユーザー

  • 10代後半~40代

表側のサイト

  • 現状のレスポンシブレイアウトから変更なし、カラーリングや雰囲気もそのまま、メイン画像はクライアント側から支給。
  • 特に10代後半~20代前半のユーザー認知度を上げたい。
  • 歴史あるサイトで知名度があるので、サイト専用のFacebookページやTwitterアカウントの運用は必要性を感じていない。
  • オープンまで約1ヶ月半。

管理サイト

  • 既存のASPサービスを工夫して使っているが、使い勝手が悪く管理効率が悪いので、改善提案がほしい。

弊社は社内にシステム開発チームがあるのを強みとしている制作会社なので、管理システムのカスタマイズやフルオーダーは得意分野です。そのため、管理画面リニューアルの開発体制や実績はクライアントにすぐに気に入っていただけました。

さて、問題は表側のサイトです。

サイトレイアウトもカラーリングもそのまま、メイン画像は支給と言われてしまうと、ウェブデザイナーは「どこで力を発揮したらよいのだろう?」と悩んでしまいます。

また、納期が短い中での集客提案や新規コンテンツの案出しも悩みです。これは単純にお金や時間をかけることで解決できる提案は求められていないと解釈することができるからです。

デザイン業務のみだった昔の私であれば、ここから先はディレクターの提案力にまかせて退場していたかもしれませんが、現在の私にはアクセス解析のデータを読み取った内容をデザインに活かせるという強みがあります。

そこで早速クライアントの業務に差し支えない範囲でアクセス解析データを提供いただくことにしました。

いただいたデータは下記の通りです。

  • ディレクトリページ(過去3ヵ月分)
  • ランディングページ(過去3ヵ月分)
  • 参照元ページ(過去3ヵ月分)

予想していたとおり、わずかな資料しかいただけませんでしたが、この基本的なデータにこそ、今回のサイト提案の核がありました。

アクセス解析から読み取れた真のユーザーニーズ

ディレクトリーページ、ランディングページをアクセス解析データを見ていると、不思議なことに気がつきました。現在のサイトには、リンクが存在しないページが多数存在しているにも関わらず、各ページへのアクセス数が多く存在したのです。

リンクをたどっていくと、リンクが存在しない多数のページは、今回のサイト以前の過去イベント情報やイベント結果報告のページであることがわかりました。

恐らく、現在のサイトでは、情報を整理してサイト内での導線を減らすことで、ユーザーが見やすいサイトをつくることを優先し、それまでの過去サイトや情報のリンクをあえて外したのではないかと推測されます。

ですが現実は、過去のサイトのイベント情報やイベント結果の情報を必要としているユーザーが多かったのです。

ディレクトリーページごとのアクセス数を合算すると、サイトアクセス数の約10%が現在のサイトにはない過去の関連ページを見ていました。過去のページはリンクが外されてはいますが、サーバーにはそのままサイト情報としてデータが残っており、過去のサイトで「お気に入り登録」をしていた人たちが、直リンクで各ページにアクセスしていることがわかります。

これらの事実から早速、過去サイトへのリンクと、過去のサイトでよく見られているページのピックアップ領域をつくることをデザインの提案に盛り込みました。

クライアントがいらないといったコンテンツは本当に必要ないのか?

また、最初の要件で気になる箇所が他にもありました。サイトの知名度はあるものの、新規ユーザー(特に10代~20代前半)の獲得には足りないものを感じているという部分です。

いただいたアクセス解析データの参照ページを見てみると、現在のサイト専用のFacebookページやTwitterアカウントはないものの、母体会社のFacebookページやTwitterアカウントで告知された、現在のサイト記事から流入があることがわかりました。

母体会社のFacebookページからの流入は参照元全体の約10%程度で、今回のターゲットユーザーは30~40代を含んでおり、Facebook利用者の多い世代を考えると、Facebookの流入数をもっと増やせるのではないかと感じたのです。

また、Facebookの流入数に対するTwitterからの流入数の割合が1/20という、Twitterからの流入がかなり少ない点も問題であると感じました。

このサイトの実際の利用者層の資料を別途いただいたところ、サイト利用者の10代~20代の割合が約6割、30代の利用は25%、40代の利用は12%です。クライアントの話では、SNSの活用にあまり必要性を感じていないとのことでしたが、昨今の若年層の情報収集手段には下記のような統計があります。

各ソーシャルメディア公式発表(2017年8月時点)

こちらはSNSの国内利用者数をまとめたものです。

また、若年層が流行やトレンドなどを情報収集する媒体は、テレビ、インターネット、雑誌より、SNSでの情報収集が3割以上といわれています。スマホでの情報収集時に利用するサービスも、インターネット検索の5割に続いて、Twitterを含むSNSからの情報収集が3割以上といわれています。

上記の統計から、SNSの活用はこのサイトにおいて必須であると感じ、早速、SNSの必要性を提案書とデザインに盛り込むことにしました。ただ、今回は短納期であるため、「即効性のある施策」と「将来的なサイトの改善」の大きく2つのフェーズに分けて提案しました。

まず即効性のある施策として、情報を拡散させるのに必要なツイートボタンの設置をデザイン提案に盛り込みました。

また、ボタン設置だけでなく、FacebookページやTwitterのキャンペーン画像サイズに適したイメージバナーも合わせて制作し、バナー画像だけで情報がわかるようにデザインして、拡散のしやすいようにしました。情報をリツイートしてもらい、リツイート情報をもらった新規ユーザーを本サイトに誘導するのが狙いです。

クライアントの要件から、今行うべきことと、将来取り組むべきことを整理して提案することが大切なので、各SNSの活用は、将来的なサイトの改善策として提案します。

このサイトの利用者層は、情報収集にSNSを活用していることは統計的に分かっています。今回のリニューアルには間に合いませんが、中長期的には専用の各SNSアカウントを開設し、年間を通した集客コンテンツとして利用する提案を今後の展開として盛り込みました。

また、最後にFacebook、Twitterだけではなく、20~30代に訴求力のあるInstagramの集客活用方法の提案も盛り込みサイト内での運用イメージをデザインで盛り込むことでより具体性を出しました。

納期の関係上、今回の案件のタイミングでは実現できないものであっても、今後のサイトに必要なコンテンツであれば、そのサイトを中長期的に運営していく上での提案を盛り込むことを弊社では行っています。一つの案件をその時一度だけのお付き合いで終わらせないように心掛けています。

まとめ

企画から運用まで考えながらデザインする時、ウェブデザイナーの業務の幅は大きく広がります。

今回の案件では、他の制作会社と費用感を含めトータルで判断された結果、残念ながら受注には至りませんでしたが、今回の提案書は高い評価をいただくことができ、同じクライアントの別のお仕事へつなぐことができました。

ビジュアルデザインが主軸ではない案件において、他の制作会社とデザイン案でどう差別化していくのか。私は「コンテンツの提案」は「デザイン」と結びつくことで何倍も効果を上げることができると考えています。

ウェブデザイナーがアクセス解析のデータを分析することできれば、デザイン設計やビジュアルデザインだけではなく、企画や設計、運用といった広い視点からからコンテンツ案やデザインを作り上げることができます。

ウェブデザイナーの仕事は、会社によって担当領域が多岐にわたります。打ち合わせから参加し、データを分析すれば、クライアントをより理解することができるようになる反面、本業のデザイン制作の時間が少なくなるというデメリットが生まれることもあります。

ですが、昨今のウェブサイトで求められていることを重視するならば、ウェブデザイナーにとって論理的な情報を的確にデザインに落とし込むことは、今のデザインには不可欠なファクターではないでしょうか。

アクセス解析のデータをもとに分析し、企画から運用といった広い視野をもってデザインをするとき、デザイナーは、プランナーやアートディレクター、プロジェクトマネージャーといった新しいステップに進むきっかけにもなるのです。

参照した統計データ

デジタルマーケティングを基礎から総合的に学ぶには

Google アナリティクスをはじめとしたGoogle系のツールは、その使い方を知ることも大切ですが、使うための戦略や設計が必要です。それは、ビジネスに成果をもたらすために必須の考え方です。

ウェブ解析士協会では、このようなデジタルマーケティングの基盤となる「ウェブ解析」を体系的に学べる環境と、知識・技術・技能に一定の評価基準を設け、あらゆるデータから事業の成果に貢献する人材を育成しています。

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この記事を書いた人

株式会社シグレストデザイナー/上級ウェブ解析士。女子美術大学修了。ゲーム会社のグラフィックデザイナーを経て、ウェブ制作会社へ。
2015年上級ウェブ解析士の資格を取得。
現在は、ウェブ制作・システム開発・ゲーム開発を手掛ける株式会社シグレストで、ウェブデザイン・グラフィック業務、制作ディレクター業務、Googleアナリティクスを活用した解析業務を行う。

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