ウェブサイトの「戦いの略し方」を学ぶ本

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株式会社まぼろしの益子貴寛です。

今回は、ウェブサイトづくりに必要な考え方が身につくのはもちろん、コンテンツ制作のアイデアが随所に散りばめられており、読んだその日から行動したくなる1冊を紹介します。

あなたのウェブサイトに「戦略」はありますか?

ウェブサイトでは(ヒト、モノ、カネがつづく限り)無限のコンテンツが公開できます。その自由さやスケーラビリティ(拡張性)が大きな魅力である一方、「どこで線を引くか」というむずかしさがあります。

新規構築やリニューアルのプロジェクトでは、目的や方向性を決めるべく、最初にコンセプトワークを行うのが一般的です。広大なキャンバスをある程度の広さに切り取って、絵を描く準備をするのですが、どうしても「あれもこれも」という足し算の方向に話が進みがちです。また、あとで冷静になり、広げた大風呂敷を縮める理由として、予算や期間を持ち出してしまうことが多いものです。

果たしてこのような進め方で、実りあるコンセプトワークになるのでしょうか。

戦略とは、文字どおり「戦いを略すこと」とよくいわれます。加えて、私たちプロフェッショナルには、戦いの略し方そのものの巧拙が問われます。予算や期間を理由にした略し方は、けっして巧みな方法でもなければ、プロジェクトの成功確率を高める方法ではありません。

では、どのような戦いの略し方が望ましいのか。それがしっかりと理解できるのが、権成俊さんら7人の手による本『なぜ、あなたのウェブには戦略がないのか?── 3Cで強化する5つのウェブマーケティング施策』(技術評論社刊)です。

マーケティングで捨てること、取り組むこと

ご存知の方も少なくないと思いますが、権さんはこれまでの著書やセミナーで「3C」というフレームワークを一貫して用いています。お客様(Customer)、自社の特徴(Company)、競合(Competitor)の観点から戦略を考えるアプローチです。これら3つから、お客様に提供するベネフィットと、競合と比較した際の差別的優位点を導き出します。

本書は、次のマーケティング施策の「戦いの略し方」を詳しく解説しています。

  • 調査・分析
  • SEO
  • リスティング広告
  • コンテンツ
  • デザイン

章ごとに示されている「捨てること」と「取り組むこと」のリストは、まさに略し方のガイドといえます。たとえば、調査・分析で捨てることは、「机上で大量のデータと向き合う」「すべてのお客様をターゲットにする」「多くのお客様の広く浅い声に振り回される」「安く安くの価格競争」「競合コンテンツをそっくり真似る」「『何でもやれます』『何でも強い』のPR」の7つです。

これらに代えて取り組むことは、「現物を手に取り、現場の人の話に耳を傾ける」「自社の価値が響くお客様に絞り込む」「高い価値を感じているお客様の声を深掘りする」「値下げよりも提供する価値を高める」「競合を超えるコンテンツを考える」「絞り込んだ強みのPR」の7つ(第2章、p.049)。

たしかに、さまざまなデータはビジネスやウェブサイトの現状を理解するのに便利ですが、それ自体が何かを語ってくれるわけではありません。大量のデータであればAI(人工知能)に任せるという選択肢がありますが、ウェブサイトへのトラフィックなど比較的少量のデータであれば、なおさら人間の解釈が必要です。

本書では、机上でデータと向き合うよりも、現物を手に取ること、現場の人の話を聞くこと、ロイヤルカスタマーの声を聞くことの大切さを説いています。私も「定量データは過去のものだが、定性データには未来がある」と考えており、ヒアリングやインタビューを重視する本書の考え方に共感します。

コンテンツやデザインでも、戦いを略すことが大切

このような視点は、ほかの章でも一貫しています。

たとえば、SEO目的でコンテンツを作ることは不要、ひとりのユーザーに出会うためのSEOを考えよう、といった意見は、大いに納得できます(第3章、p.086ほか)。商品やサービスに「選ばれる理由」がないのに、リスティング広告を出稿しても効果が低いことや、オムニチャネル消費が増え、購入までの経路が多様化しているため、リスティング広告の成果を正しく評価することがむずかしく、PDCAサイクルが回しにくいことも、実態に即した説得力のある意見です(第4章、p.108ほか)。

戦いの略し方は、コンテンツやデザインにも及びます

わたしはコピーライティングや文章ライティングの分野にも力を入れて取り組んでいるのですが、本書のいうとおり「テキストは読んでもらえないを前提に」(第5章、p.158)仕事を組み立てています。だからこそ、ページに含める文字情報には、わかりやすさと読みやすさの両面からさまざまな工夫を施します。また、実際にワイヤーフレームを描くときも、文字情報をデザイン要素の一部として考えながら、写真、イラスト、動画などを大胆に組み合わせます。

本書では、デザインでも「引き算が大切」と説きます。具体的には「要素を絞る」「優先順位をつける」「余白を作る」の3つです(第6章、p.216)。これは、ミニマルデザインの考え方と共通します。商品数が多く、キャンペーンが盛んなECサイトほど、雑木林のような雰囲気になりがちですが、インターフェイス設計の面でも「戦いを略すこと」を徹底したいところです。

 

以上、本書の見どころ、読みどころを紹介しました。

一読したあとも、日々の課題解決のヒントを得るために、身近に置いておきたい1冊です。

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益子 貴寛
株式会社まぼろし 取締役CMO。1975年、栃木県宇都宮市生まれ。早稲田大学大学院商学研究科修了。
ウェブサイトの企画、設計、プロジェクトマネジメントから、
リスティング広告運用、ソーシャルメディア運用、
アクセス解析レポーティング、ランディングページ設計、SEOまで、
ウェブマーケティング全般を担当。Google アナリティクス認定資格者(GAIQ)。Google AdWords認定資格者。
社団法人 全日本能率連盟登録資格「Web検定」プロジェクトメンバー。日本マーケティング学会 会員。主な著書に『Web標準の教科書』(秀和システム)など。